第3回 消えた後足

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大正後期から敗戦直後までの「探偵小説」、それが国語改革(改悪でしょう)の漢字制限で改名した「推理小説」、そして戦前と変わらぬカタカナ英語の氾濫に溺れた「ミステリー」、いずれの作品でも消えるのは、たいてい"足跡"です。しかし今回の題名は足跡ではなく"後足"になりました。気がついたのは2006年(平成18年)頃だったでしょうか、新聞・雑誌の記事から、ラジオの音声から、TVのテロップからも「後足(あとあし)」が消えて、すべて「後ろ足(うしろあし)」に取って代られているのでした。

(Footとlegの区別に無頓着な日本語の常として、足は脚になることもあります)。

なぜ「あとあし」が「うしろあし」によって消去されたのか、何時、誰が抹消指令を発したのか(文部省の指示があったのか)、諺も「後ろ足で砂を掛ける」に改変されているのか、読者の皆様のご教示を仰ぎたいと存じます。

(SHARP電子辞書・形名PW-V9400内蔵の「言葉の作法辞典」では「うしろあしで砂をかける」は誤用"×"としており、同PW-AC880の「スーパー大辞林3.0」は「あとあし」と入力しないと、「~砂をかける」という、ことわざが出力されません)。

国語の変化が気になる筆者が、2007年(平成19年)以来、マスメディアから拾い出した「後ろ足」の例を、時系列的に並べて見ましょう。

H19-1-9(9JA07)[この日付不確実]NHK-TV「ダーウィンが来た」:「後ろ足で水上を歩行する、中米コスタリカのトカゲ」とのナレーション。

H19-1-9 (9JA07) NHK-TV「NHKスペシャル」:「セイウチの牙で後ろ足を傷付けられた雄のホッキョクグマ」との女声ナレーション。

H19-4-19 (19AP07) NHK-ETV 「自然」:「トノサマバッタは羽根と後ろ足を擦り合わせて鳴く」という女声ナレーション(林原めぐみ)。

H19-7-19 (19JL07)日本TV「ニッポン旅×旅ショー」:屋久島に於ける海亀の産卵シーンで「後ろ足で卵にやさしく砂をかける」のナレーション。

H19-10-23 (23OT07) 日本TV「スッキリ」:「後ろ足で砂をかけられた花田美恵子さん」との女声ナレーション。(危惧したことが現実に、の感がありました)。

H20-10-5 (5OT08) 日経「サイエンス」欄:「アマミノクロウサギは(中略)後ろ足が短く、ウサギの仲間でありながら跳躍が苦手(後略)」。

H21-1-29 (29JA09) NHK-ETV:北海道・旭日山動物園の飼育員(中年男性)も、観客への説明で、「後ろ足」を使用。

H21-1-XX (XXJA09)テレビ「動物奇想天外(??)」:アムールトラの赤ん坊の左後脚が発育不全で歩行困難な状態であることを説明する男声ナレーションでは、「左後ろ足」を何度も繰り返していた。「うしろあし」に「ひだり」という形容詞が付くと、プロのナレーターでも舌がもつれて、発音困難な感じ。

H21-2-8 (8FB09) NHK-TV ハイビジョン「シートン動物記の世界」:狼王ロボが、シートンの仕掛けた罠を弾かせて、無効にしてしまうところで、男声ナレーションは「後ろ足で石を蹴り、わなに当てて、鉄輪を作動させてしまった」。

H21-4-19 (19AP09) 日経「窓」欄:「◎...生まれつき四肢に障害がある北海道・釧路市動物園のアムールトラ二頭が駆けたり、後ろ脚で立ち上がったりと順調な成長を見せている。(後略)」

後足は、前足の存在を前提に話題にするものでしょう。マエアシとウシロアシの組み合わせは不揃いな言葉ですが、マエアシとアトアシと言えば、4音節で整い、語呂も良くなります。
「お山の中ゆく汽車ポッポ」も、「機関車と機関車が前引き、後押し」であれば、どんな坂でもなんなく登りきれそうですが、"マエヒキ、ウシロオシ"ではガッタン、ゴットンと苦しくて、順調な進行は無理なように思えます。

後足が後ろ足によって消されてしまった経緯をお教え賜りたく、重ねてお願い申し上げます。

PS. 本文中、日付の略記法の英字は、1955年頃、横浜の米国海軍図書館のゴム印に用いられていたものです:JAnuary, FeBruary, MaRch, APril, MaY, JunE, JuLy, AuGust, SePtember, OcTober, NoVember, DeCember.19AP09のように、すべての日付をスペース無しの6桁で表現できます。狭い艦内での使用を考えてのことでしょう。1から9までの1桁の日は、01, 02, 03....09で表していましたが、本文では、読みやすさのために、ゼロを省きました。

第2回 Telecommunicationの訳語の謎

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TPS, Inc. サイトの"Koji's Kozy Korner"欄に書いた第1回の「英語のgrandnephewとgrandnieceに対応する日本語は何でしょうか? 読者の皆様のご教示を乞います」に、ようやく一人の方から教えていただくことができました。「Grandnephewは又甥(またおい)、grandnieceは又姪(まためい)といい、両者をまとめて姪孫(てっそん)と呼ぶ」そうです。疑問が解決したので、次の話題に移りたいと思います。

第2回は、telecommunicationの訳語に関する謎です。電気通信業界におけるtelecommunication(s)の訳語は「電気通信」であり、これ以外の訳語を見かけたことは、ここ40数年、一度もありません。しかし、市販の英和辞典では、「遠隔通信」や「遠距離通信」という訳語の比率が、近年ますます高まる傾向にあります。(1960~70年代には「遠隔通信」が多かったように記憶していますが、80年代以降には「遠距離通信」が多数派を占めている観があります。) これらの訳語が実際に使用されている業界がありましたら、その事例を教えていただきたく、読者の皆様にお願い申し上げます。

英和辞典の例をいくつか並べてみましょう。

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筆者(Koji)が1961年(昭和36年)に電気通信業界に入って3ヶ月ごろ、電話交換機設計部の先輩社員から米国の雑誌記事の和訳を頼まれました。文中のtelecommunicationsを、辞書も引かずに「遠隔通信」と訳したところ、「それならtelegraphは"遠報"で、 telephoneは"遠話"ですか?」と皮肉られました。英和辞典を引いたら「電気通信」でした。

しかし、その後、この"遠隔通信"や、類似の"遠距離通信"という誤訳が日本の一般的な英和辞典の大多数を汚染してしまいました。汚染の原因が、もしかしたら自分にあったかも知れない、と想像して、怖くなりました。

そのように想像したのには、こんな事実があったからです。

電気通信業界内で"遠隔通信"の誤訳を犯して半年くらい後、今度は先輩技術者から、International Switching Symposium (ISS)に提出する論文の英訳を頼まれました。主題は、当時の最新式だったクロスバ交換機(crossbar switching system - XB)のフレーム構成(frame arrangement)でした。具体スイッチ(physical switch)の背面の琴線(banjo string wiring)を切断して、分割した各部分を「格子」と呼び、これを組み合わせるフレーム構成の巧拙が、交換機全体の性能とコストに大きく影響するため、このテーマの論文が多数発表されていました。

筆者は旧型のステップバイステップ(step-by-step - SXS)交換機を担当させられていたので、XB技術用語をほとんど知りませんでした。ですから「格子」に対応する英語など分るはずがありません。ままよと"lattice"と訳して、先輩に渡しました。格子とは日本の有線通信業界の俗語的な専門用語であり、正式な技術用語は「理論スイッチ (theoretical switch)」であると知ったのは、論文が郵送されてからしばらく後でした。それから2、3年を経て、米国の学会会報(proceedings)の論文中にlatticeが一般的に使われるようになったのでした。

これも40年余り昔、新聞記事で知ったことです。英語関係の書物で有名な某出版社の大型英和辞典に、見出し語"back mirror"とその訳語「バックミラー」が載っていました。それを或る利用者が誤りだと指摘したところ、出版社からも、著名な英語学者の編者からも無視されました。誤りの訂正を再三求めたら、編者から「市井の素人が何を言うか」との返事。怒った利用者が某新聞社に投書して、論争を引き起こした結果、とうとう「rearview mirror」に書き直されたそうです。活字を1個ずつ拾って、活版を作らなければならなかった時代のことです。出版社が訂正をためらったのも無理なかったのでしょうか。

筆者自身の経験を述べれば、1990年代、別の有名出版社の和英辞典で、見出し語「潜水艦」で引いたら、「submarine」と正しい訳語が載っていました。しかし、それに続く「潜水母艦」の訳語が"submarine carrier"になっているのに仰天しました。「航空母艦」が「aircraft carrier」であることから単純に類推した結果の誤りに違いありません。 「航空母艦は、航空機を運び、発艦・着艦させる軍艦ですが、潜水母艦は、潜水艦を運ぶのではなく、潜水艦に燃料、魚雷、飲料水、食料などを供給する(世話をする tend)軍艦なので、submarine tenderと言います」という趣旨の手紙を編集長宛に書きました。

即座といってよいほどの日数で、適切にtendされた辞典が書店の店頭に並びました。コンピュータが印刷・出版の世界で、日常的に使われるようになっていたからです。

皆様のお便りを期待しております。
はじめまして。株式会社ティーピーエスの顧問 · 大澤公邇です。 このたび当社のホームページで "Koji's Kozy Korner" 欄を担当することになりました。 ご愛読、ご意見、ご支援、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

本欄は、読者の皆様と、 日本語と英語について、また日本文化と英語圏文化について、自由に、楽しく会話したいと願うものです。 筆者は、30代の半ばに、英国のパブのような店を持ちたいと思いました。 KOJI'S KOZY KORNERの店は実現しませんでしたが、30数年後にバーチャルの形を持てることになりました。 読者諸兄姉から話題を頂戴して出来る限りお答えしたり、筆者からの質問に対してお答えや参考情報を提供して いただいたりして、その過程で話の花を咲かせたいと思う次第です。どうぞよろしくお願い申し上げます。 この第1回では、皆様に筆者からのお尋ねをさせていただきたいと存じます。 昭和30年代に結婚した姉には孫娘が2人と孫息子が2人、妹には孫息子が1人生まれました。 筆者にとっては、姉妹の孫は、英語で言えばgrandnephewsとgrandniecesです。 ふと気が付いて、これらを日本語で何と言うか疑問を抱きました。彼らと彼女らから見れば、筆者はgranduncleであり、 日本語では大伯父/大叔父になります。英和辞典を引いてみると、grandnephewは「甥[姪]の息子、兄弟[姉妹]の孫息子」、 grandnieceは「甥[姪]の娘、兄弟[姉妹]の孫娘」と説明されているだけで、該当する単語は載っていません。 周囲の者に訊いても誰も答えを知りませんでした。ご承知のとおり、英語には兄と弟、姉と妹、伯父と叔父、 それぞれを区別する単語は存在しません。それなのに日本語には何故grandnephewとgrandnieceに対応する単語が無いのでしょうか。 どなたかご教示賜れば幸いです。

英語のbrotherに兄と弟の区別が無いという点での筆者の経験を申し上げます。 20歳の大学生のとき頻繁に出入りしていた横浜の米国海軍基地で、6歳年長の女性軍属(中尉待遇のcivilian)が筆者に英語を教えてくれました。 彼女には7歳と10歳年長の兄2人がいるとのことでした。或る日の会話で、 彼女が "My little brother was an airline pilot, but he's now a Lockheed test pilot" と言うので、変だなと思って、聞き返しました。 そのlittle brotherとは、「下のお兄ちゃん」のことで、もう1人はbig brotherでした。

皆様のお便りを期待しております。

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